ふと手元がおぼつかず、大切にしていたお皿が割れてしまう。あるいは、永く愛用してきた湯呑みの縁に小さな欠けを見つけてしまう。
そんなとき、胸に広がる切なさとともに、「どうにかしてもう一度、この器を食卓に呼び戻したい」と願うお気持ちはとても温かく、愛おしいものです。
器をプロの修復へ託そうと調べを進めるなかで、「本格金継ぎ」と「クイック金継ぎ(簡易金継ぎ・現代金継ぎ)」というふたつの手法を目にされ、どちらを選ぶべきか悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「お気に入りの器だから、安心して永く使いたい」
「プロに頼む場合、ふたつの方法にはどのような決定的な違いがあるのかしら」
今回は、世田谷の金継ぎ工房「レストーレ」が、本格金継ぎとクイック金継ぎの違いについて、使われる素材や食卓での安全性、そして仕上がりに宿る美意識の視点から丁寧にお話しいたします。
本格金継ぎとクイック金継ぎの違い|素材と技法が紡ぐ根本的な差
ふたつの手法の最も大きな違いは、修復に用いられる「素材」と、それに伴う「時間」にあります。
一見すると同じように金の筋が輝く仕上がりに見えても、器の内部で起きていることや、手仕事のプロセスは大きく異なります。
天然の恵みで慈しむ「本格金継ぎ」
本格金継ぎとは、ウルシノキから採取される天然の「本漆(ほんうるし)」と、純金粉や銀粉といった自然の素材のみを用いて器を修復する、古来より受け継がれてきた伝統技法です。
漆は「乾く」のではなく、空気中の水分を取り込みながら時間をかけてゆっくりと固化していきます。そのため、一工程ごとに数日から数週間の乾燥期間(湿度管理)を要し、完成までに長い月日を要します。
レストーレでの修復期間の目安は約160日。植物の命を借りて器を繋ぎ直すこのプロセスは、器が歩んできた時間にそっと寄り添う、静かで贅沢な手仕事と言えます。
現代の技術を生かした「クイック金継ぎ」
一方のクイック金継ぎ(簡易金継ぎ・現代金継ぎ)は、合成接着剤や充填材、真鍮粉などを用いて修復を行う現代的な手法です。
最大の特長は、固化スピードの早さにあります。数分から数時間で接着や成形が完了するため、短期間で器の形を取り戻すことができます。レストーレでの修復期間の目安は約30日と、お急ぎの方にも選びやすいアプローチです。
安心して食卓で使うために|安全性と耐久性における違い
プロへ金継ぎ修理を依頼される際、多くのお客様が最も重視されるのが「食卓での安全性」と「使い心地」です。
口に触れる器としての安心感
本格金継ぎで用いられる本漆は、完全に硬化してしまえば熱にも水にも強く、人体の肌や口に触れても完全に無害となります。古くから日本の汁椀や箸に用いられてきたことからもわかるように、直接お料理が触れるお皿や、熱いお茶を注ぐ湯呑み、口を付けるマグカップにも安心してお使いいただけます。
一方で、クイック金継ぎで使われる一般的な合成接着剤や塗料は、高温の熱や水分、油脂分によって成分が劣化・溶出する恐れがあるため、食品衛生上の観点から使用に制限がつく場合もございます。
しかし、合成接着のなかでも「食品衛生法の基準」を満たしている素材であれば、口に触れる器であっても安心です。レストーレのクイック金継ぎでは、基準をクリアした接着剤・充填材を採用しておりますので、修復後も日常の食器としてご使用いただけます。クイック金継ぎをお選びいただく際は、「食品衛生基準を満たしているかどうか」が非常に重要な見極めポイントとなります。
年月とともに育つ美しさと経年変化
漆は表面が乾いたあとも、内部で徐々に酸化硬化が進み、数年から数十年以上かけてゆっくりとより強固になっていくという非常に奥深い性質を持っています。時を重ねるごとに味わいが増していく姿は、まさに日本の「侘び寂び」の美意識そのものです。
対して、合成樹脂を用いたクイック金継ぎは「完成した瞬間が最も強い強度を持つ」という特性があります。漆とは異なる素材だからこその特徴を理解したうえで、器の用途に合わせて選択することが大切です。
レストーレが大切にする丁寧な手仕事と対話
金継ぎ工房「レストーレ」では、お客様が大切にされてきた器の記憶に耳を傾け、どのような仕上がりがお客様の暮らしに最も寄り添えるかを共に考えてまいります。
本格金継ぎやクイック金継ぎの修復にあたりましては、お客様に安心してお預けいただけるよう、事前に分かりやすいご案内を心がけております。
| ご確認事項 | 本格金継ぎ | クイック金継ぎ |
|---|---|---|
| お預かりから完成までの標準納期 | 約160日 | 約30日 |
| お預かりする基本料金の目安 | 料金ページにてご確認いただけます | |
| 修理後の保証期間・アフターケア | 1年間 | |
| お受けできる器の種類・対応範囲 | 都度ご相談 | |
まとめ
本格金継ぎとクイック金継ぎの違いを見つめ直すことは、「その器とこれからどのように付き合っていきたいか」を思い描く過程でもあります。
時間をかけず手軽に形を戻すクイック金継ぎにもそれぞれの役割があり、食品衛生基準に配慮された修復であれば日常使いにも心強い味方となります。そして、器が重ねてきた歴史を慈しみ、じっくりと時間をかけて直したいと願うならば、本漆が描く金のラインはかけがえのない選択肢となるはずです。
形あるものは、ふとした瞬間に傷ついてしまうことがあります。けれど、その傷跡を愛おしみ、丁寧に手を加えることで、器は以前よりもずっと深みのある表情をまとってあなたの元へ戻ってまいります。
大切な器の修復についてお悩みの際は、どうぞお気軽に世田谷のレストーレまでご相談ください。職人が静かに器と向き合い、新たな物語を紡ぐお手伝いをさせていただきます。